ドイツのエネルギー・環境分野の最新情報をお届け

2025年第2号

ごあいさつ

 

ニュースレターをご購読の皆様、

ドイツでは、キリスト教民主同盟(CDU)党首フリードリヒ・メルツ氏が首相に選出され、ようやく大連立政権による新政権が発足しました。エネルギー経済大臣にはカテリーナ・ライヒェ氏が就任し、エネルギーの安定供給、電力税の引き下げなど、連立合意の内容がどのように実施されるかが注目されています。また、経済においては、ドイツの名だたる企業であるボッシュやVW、テュッセンクルップなどが大規模解雇を発表するなど、今後の状況を不安視する声も多く聞かれています。

特に、自動車産業を経済の柱とするドイツにとって、トランプ関税が実際に発動されれば、その影響は避けられず、経済が大きな打撃を受ける可能性もあります。新政権がどのように経済成長とイノベーションを実現し、マイクロエレクトロニクスやロボティクスといった基幹産業において、ビジネスの主要拠点を確立していくのか、その手腕が問われています。気候政策についても、経済成長と気候保護の両立は容易ではなく、今後四年の政権の手腕が、ドイツの未来の政治状況にかかっていると言っても過言ではありません。

日本企業にとっても、ドイツの産業政策は無関係ではありません。特に再生可能エネルギー、自動車や精密機器、マイクロエレクトロニクスといった分野では、両国の企業が協業を通じて互いに補完する関係にあります。ドイツの政策転換が日本企業の戦略にも影響を与える可能性は高く、弊社でも引き続き丁寧にフォローして参ります。 弊社が事務局を務める日独エネルギー変革評議会では、先般、カーボンプライシングと重要鉱物の供給確保に関するアウトリーチイベントを行い、同イベントの資料も公開されていますので、日々の業務にお役立て頂ければ幸いです。

 

ヨハンナ・シリング

ECOS代表取締役


経済ニュース

 

ユーロ圏経済、再び停滞

ユーロ圏の4月の購買担当者指数は50.1に低下し、経済は再び停滞状態となった。サービス業は予想以上に悪化する一方、製造業は生産拡大や利益率改善により堅調さを維持している。

ユーロ圏経済は2024年4月に再び停滞状態に陥ったことが、S&Pグローバルによる月次企業調査により明らかとなった。購買担当者指数(PMI)は3月の50.9から50.1へと予想以上に大きく下落し、景気拡大と縮小の境界である50をわずかに上回る水準を維持している。特にサービス業のPMIは、51.0から49.7へと低下し、予想を下回る結果となった。 年間見通しは約2年半ぶりの最低水準に落ち込み、受注の急減が景気回復の勢いを削いでいる。一方、製造業のPMIは48.7と成長の閾値を下回りつつも、0.1ポイントの上昇を示し、27か月ぶりの高水準を記録した。生産は2か月連続で拡大し、そのペースは加速している。 また、雇用削減のペースは鈍化し、コスト低下によって製造業の利益率は改善された。販売価格の引き上げも可能となったことで、製造業は予想を上回る堅調な動きを見せている。

(出典:2025年4月23日、ハンデルスブラット

©Pixabay

ドイツ新政権が発足、経済大臣はカテリーナ・ライヒェ氏

ドイツ新政権は社会市場経済と国際競争力の強化を掲げ、100億ユーロ以上の国家投資基金や特別基金を通じて、インフラ整備・脱炭素化・AI分野などに重点投資を行う。エネルギー政策では安定供給と低コストを重視し、再生可能エネルギー・水素・CCS技術の推進と制度改革を進める方針。

CDU党主のメルツ氏は、5月6日に首相に選出され、ドイツ新政権が正式に発足した。経済政策については、社会市場経済の確立と国際競争力のある経済の実現を目指し、官僚主義の削減・撤廃を図り、ビジネス拠点としての経済の強化を目指す。「ドイチュランドフォンド」(ドイツ基金)が設立され、少なくとも100億ユーロを投じて国家戦略的投資を支援する。また、病院、学校、橋、鉄道といった全国インフラを対象とする特別基金の創設が計画されている。さらに、5000億ユーロ規模の特別基金(Sondervermögen)を通じて、長期的なインフラ整備と気候中立への移行を促進する。 鉄鋼産業、化学、製薬、バイオテクノロジー分野が重要視されている他、自動車産業も引き続き重要産業とされ、雇用の維持が図られる。造船を含む海運経済や港湾インフラも強化対象とされ、戦略的原材料の安定供給も重視されている。 また、AIやクラウドインフラ、ロボティクスの分野には大規模な投資がなされ、ドイツをAIおよびスタートアップの中心地とすることを目指す。マイクロエレクトロニクス分野では、欧州チップス法とIPCEIの枠組みを通じて、ドイツを主要拠点として強化する。

気候変動政策においては、引き続き2045年までの気候中立達成にコミットし、再生可能エネルギーの活用と技術革新を推進する。エネルギーコストを恒常的に低く抑え、予測可能かつ競争力のある水準とすることが目標である。そのために、発電所戦略、送電網・蓄電池の拡張、柔軟な運用を含む体系的なアプローチが採られる。就任演説においてライヒェ経済大臣は、今後のエネルギー政策の最優先課題として「安定したエネルギー供給」を掲げた。スペインとポルトガルで発生した大規模停電(2025年4月)を例に挙げ、電力システムの脆弱性に警鐘を鳴らした。 電力税の欧州最低水準への引き下げ(具体的には1kWhあたり少なくとも5セント軽減)、送電網使用料の削減、電気料金補償の恒久的な拡大、ガス貯蔵賦課金の廃止などが短期的措置として実施される。

脱石炭政策については、前政権が掲げた「2038年までの石炭火力廃止目標」を引き継ぐ一方で、2030年までに最大20GW規模のガス火力発電所を、柔軟な形で推進するとしている。原子力エネルギーへの回帰は引き続き考えられないとしている。

太陽光発電は、系統連系の促進、設置手続きの簡素化、駐車場・農地などでの二重利用の促進を通じて拡大される。風力発電も目標を評価しつつ送電網との整合性を確保しながら拡大される。CCU(炭素回収・利用)およびCCS(炭素回収・貯留)は、気候中立性の実現に不可欠な技術とされている。熱電併給(CHP)や効率的な熱供給ネットワークへの投資、排熱の活用、非化石エネルギーキャリアの導入促進なども重要施策とされる。地域熱に関する価格規制の改正や監視強化も盛り込まれている。 前政権下で導入された、建物エネルギー法(Gebäudeenergiegesetz, GEG)における、新規暖房設備の自然エネルギーの割合を65%以上と義務付けるとする条項については、廃止する意向が新政権下で示されている。

(出典:2025年5月6日、ドイツ連邦経済・気候保護省連立合意文書

© BMWE / Laurence Chaperon

ドイツへのFDI、2023年は724件 過去5年と同水準

2023年、ドイツへの外国直接投資(FDI)は724件となり、前年からやや減少したものの過去5年平均を維持した。投資総額は232億ユーロに達し、国際企業の関心が集まっている。

ドイツ貿易・投資振興機関(GTAI)が発表した「2024年FDIレポート」によれば、2023年にドイツへの新規進出または事業拡大を発表した外国企業は724社に上った。この数は前年比で2%の減少となったが、過去5年間の平均水準と同程度である。 国際的なビジネスプロジェクトの投資総額は232億ユーロに達し、これはドイツにおいて過去3番目に高い水準である。この高水準の投資額は、世界的な多国籍企業による多数の大型プロジェクトの実施を反映している。 また、ドイツの各州においては、2024年に1,724件のFDIプロジェクト(グリーンフィールド型、新規拡張、移転。ただしM&Aを除く)が登録されており、こちらも前年比で2%の微減となっている。 国別では、米国が229件のプロジェクトで他国を大きくリードしており、EUも主要な投資元地域としての地位を維持している。国際企業は、デジタル化やエネルギー・資源といった戦略的分野への投資を重視する傾向にある。さらに、外国企業の約5社に1社がドイツを生産拠点または研究開発拠点として位置づけており、日本企業も60件のプロジェクトに参画している。

(出典:2025年5月12日GTAI


環境ニュース

 

ドイツ、2024年も温室効果ガス排出を削減、交通・建築分野に課題残る

2024年、ドイツの温室効果ガス排出量は前年比3.4%減の6億4,900万トンとなり、気候目標の軌道に乗っていることが示された。エネルギー部門が大幅な削減を達成する一方、交通・建築部門では目標未達が続き、EU規制下での排出超過リスクが顕在化している。長期的な気候中立の実現には、部門間の不均衡是正と政策の継続的実施が不可欠である。

2024年、ドイツの温室効果ガス排出量は前年比3.4%減の6億4,900万トン(CO2換算)となり、同国が気候目標の達成に向けた軌道上にあることを示している。法定調整済み年間総排出量は6億9,340万トンであり、これを大幅に下回る見込みである。 既存の政策が維持されれば、1990年比での排出量65%削減目標(2025年)も依然達成可能とされ、2030年までには63%削減される見通しである。しかし、2021年から2030年までの部門横断的な年間排出量の累積では8,100万トンCO2相当の超過が見込まれており、特に輸送部門と建築部門の不足分をエネルギー部門の過剰削減が補っている構図となっている。

一方で、EUの努力分担規則(ESR)に関しては、2021年から2030年の間に2億2,600万トンの排出超過が予想されており、これは主に交通および建築部門の進捗不足によるものである。対策が講じられない場合、CO2価格の上昇や罰金負担のリスクが生じる可能性が高い。 分野別の状況は以下の通りである。

  • エネルギー部門:再生可能エネルギー比率の増加(54%)により、排出量を1,760万トン削減し、累積目標を2億5,000万トン超過達成する見込みである。
  • 交通部門:年間排出量は1億4,310万トンであり、目標を1,800万トン超過しており、電気自動車の普及が鈍化している。累積で1億6,900万トンの未達が見込まれる。
  • 建設部門:排出量は1億500万トン(2.3%減)だが、許容量を上回っており、2030年までに1億1,000万トンの未達が予想される。
  • 産業部門:排出量は1億5,300万トンで横ばい。累積では7,300万トンの超過達成が見込まれるが、2030年以降に向けてインフラ整備や政策の確実性確保が急務である。

また、2024年のドイツにおける再生可能エネルギーの成長は、太陽光発電とヒートポンプが主要な要因として挙げられる。交通部門における再生可能エネルギーの割合はわずかに減少したが、全体的な傾向は再生可能エネルギーの割合の着実な増加を示している。これは数百万トンの温室効果ガス排出の回避に貢献し、投資を大幅に促進している。

(出典:2025年3月14日ドイツ連邦経済・気候保護省プレスリリース、4月3日同省ニュースレター

 

ドイツのレアアース輸入、依然高い中国依存 ― EUは調達先の多様化へ方針転換

ドイツはレアアース輸入の約65%を中国に依存しており、一部品目では依存度がほぼ100%に達している。輸入量はやや減少傾向にあるものの、依然として高い供給リスクを抱えている。EUは自給率向上と供給元の多様化を目指し、2030年までの依存度削減を計画している。

ドイツはハイテク製品の製造に不可欠なレアアース資源の大半を輸入に依存しており、特に中国からの供給に大きく依存している。2023年には、輸入されたレアアースの65.5%が中国由来であり、前年の69.1%から若干の依存度低下が見られたものの、依然として主要供給国である。これに続く輸入先はオーストリア(23.2%)とエストニア(5.6%)であり、両国では他国産のレアアースが再加工されているため、原産地の特定は困難である。中国は近年、レアアースの輸出規制を強化しており、これは欧米諸国にとって戦略的リスクとなっている。EUは、ネオジムやプラセオジムなどを含む複数のレアアースを「戦略的に重要な資源」と位置付け、2030年までに単一国依存を最大65%に抑える方針を掲げている。これには、域内での資源自給・リサイクル強化および調達先の多様化が求められる。 ドイツ国内では、レアアースの採掘は行われておらず、輸入量も2023年には前年比12.6%減の5,200トン(6,470万ユーロ相当)となった。特にランタン化合物の76.3%、電気モーター用のネオジムやプラセオジム、サマリウムに至ってはほぼ全量が中国からの輸入であり、分野によっては極めて高い依存状態が続いている。

(出典:2025年4月23日、ハンデルスブラット

 

ドイツ水素経済の要、貯蔵インフラ整備に向けた政策指針

ドイツの連邦経済・気候行動省(BMWK)は、水素貯蔵に関するホワイトペーパーを公表し、急増する水素貯蔵需要に対応するための技術的、法的、投資面での課題に対する方針を示した。特に、既存の天然ガス・石油貯蔵施設の転用や、競争的な市場形成の重要性が強調されている。

連邦経済・気候行動省(BMWK)は、水素貯蔵に関するホワイトペーパーを公表し、今後の水素経済における貯蔵の役割と課題、対応策を明確にした。本書は、意見募集段階で提出された産業界からの要望を踏まえ、特に貯蔵ニーズ、技術的可能性、制度設計、投資支援の必要性に焦点を当てている。これにより、計画・承認手続きの迅速化、長期的市場設計の予見性、投資リスクへの対処策が政策の中核課題として浮上している。

ドイツおよび欧州における水素貯蔵需要は今後急増が見込まれており、各種モデルによれば2030年までに2~7TWh、2045年には最大80TWh、欧州全体では2050年に最大161TWhの需要が想定されている。特に産業利用や発電所での再電気化用途が需要増加の主因とされる。ドイツは地質的に優れた貯蔵条件を有しており、塩洞が最有力候補とされる一方、地上型の加圧・液体水素貯蔵も短期・分散型用途として有望である。 また、既存の天然ガス・石油地下貯蔵施設の転用により、2040年までに水素貯蔵需要の20~50%をカバー可能とされる。特に塩洞の転用は法制度の整備が前提となるが、6年以内の実現が可能であり、新規建設の場合は最大12年を要する。

規制枠組みに関しては、迅速なインフラ整備と投資促進を支援するため、明確で限定的なルール設定と市場参入障壁の撤廃が提案されている。競争的市場の形成が基本方針とされており、技術の多様性と地域的分散が市場の健全な発展に資するとの見解が示されている。 本ホワイトペーパーは、第21立法期間中の水素貯蔵政策の基盤文書として位置づけられ、今後の制度設計や支援策の方向性を形作るものである。

(出典:2025年4月17日、ドイツ連邦経済・気候保護省プレスリリース

 

ドイツにおいて、バイオ廃棄物規制の新たな要件が施行

2025年5月から、バイオ廃棄物中のプラスチック混入率が最大0.5%に制限され、生分解性プラスチックも対象となる。これはマイクロプラスチックによる環境汚染を防ぐための措置であり、適切な分別により高品質なリサイクルと温室効果ガス削減が期待されている。

2025年5月1日より、バイオ廃棄物に含まれるプラスチックの含有量に新たな制限が設けられ、最大0.5%までとされる。対象は生分解性を含むすべての異物となる。異物の混入が少ないほど、高品質な堆肥の生成が可能となる。 現状では、バイオ廃棄物に含まれる異物の大半がプラスチックであり、これが分解されてマイクロプラスチックとなり、環境汚染を引き起こしている。

新規制の目的は、このような汚染の抑制および人や自然へのリスク低減にある。 2025年5月以降は、有機ごみから排出されるバイオ廃棄物に対しては、最大1.0%のプラスチック混入が許容される。この基準は処理業者や混合物製造業者を対象とし、受け入れた廃棄物に基準超過の異物が含まれていれば除去が義務付けられる。対象となるのは、食品包装やコーヒーカプセルなどのプラスチック製品である。 バイオ廃棄物は自治体ごみの中で最大の割合を占めるが、多くが誤って可燃ごみに出されており、正しく分別された廃棄物にも誤投入が多い。その結果、質の高いリサイクルが妨げられている。

消費者による適切な分別は、異物除去にかかる労力とコストを削減し、資源の有効活用および温室効果ガスの削減に寄与する。 本規制は2022年5月1日に公布され、2025年の施行までに経過措置が設けられたことにより、バイオマス関連業界は準備期間を確保することが可能となった。

(出典:2025年4月22日、ドイツ連邦環境省プレスリリース

©Pixabay

ドイツ初の水素基幹ネットワーク、ニーダーザクセンで始動

ドイツ初の水素基幹ネットワークがニーダーザクセン州で始動し、旧ガス管を再利用した55kmの区間が運用開始された。将来的にはルール地方やドイツ全土への供給が予定されており、2032年までに全国ネットワークの完成を目指している。

ドイツ初となる水素基幹ネットワークの運用が開始された。最初の区間は、ニーダーザクセン州リンゲン(エムスラント)からバート・ベントハイム(グラーフシャフト・ベントハイム)までの55キロメートルであり、ネットワーク運営会社ノヴェガにより開通されたものである。 この水素パイプラインは、エムスラント、グラーフシャフト・ベントハイム、ミュンスターラントを経てルール地方までを結ぶ広域ネットワークの一部であり、将来的にはドイツ全土に水素を供給することを目指している。

同ネットワークの水素供給は、2023年8月よりリンゲンの試験設備で生産された水素をもとに、当初はトレーラー輸送により実施され、初期充填量は28,500立方メートルである。水素は現在、グラーフシャフト・ベントハイムとエムスラント間の地中パイプラインを通じて供給されている。 2025年後半にはネットワークのさらなる南下が計画されており、グリーン水素がルール地方を経由して、より広域な工業地域にも届けられる予定である。

これにより、水素製造地から離れた産業拠点においても、水素という再生可能エネルギーキャリアの活用が可能となる。 ノヴェガ社は既存のガスパイプラインを再利用することでコスト効率の高い整備を進めており、約60%のパイプラインが既に整備済みである。ニーダーザクセン州では、パイプラインの95%が旧来のガス管を転用したものである。これらの改修・整備は、連邦政府およびニーダーザクセン州の支援を受けて実施されている。 ドイツ全体の水素基幹ネットワークは、総延長約1,800キロメートルを想定しており、2032年の完成が予定されている。ニーダーザクセン州は、その約5分の1が州内を通過することから、国家的な水素インフラ整備において極めて重要な役割を果たしている。

(出典:2025年3月27日、NDR

 

EU、自動車メーカーにCO2排出規制の猶予期間を付与

EUは、自動車メーカーが新たな厳しい排ガス規制を遵守するため、猶予期間を設けることを決定。新車には1kmあたり93.6グラムのCO2排出制限が課せられるが、自動車メーカーは3年間の猶予期間を与えられ、2026年または2027年に規制値を達成すれば罰金を回避できる。

EUは、自動車メーカーが2025年から施行される厳格なCO2排出規制に適応するため、猶予期間を設けることを決定した。新たに販売される自動車には、1キロメートルあたり93.6グラム以上の二酸化炭素を排出してはならないという規制が引き続き適用されるが、自動車メーカーは当初の予定通り、今年中にこの規制を達成する必要はなく、3年間の猶予が与えられることとなった。

もし今年中に規制値を達成できなければ、2026年または2027年に更なる改善が求められ、その際に規制値を達成すれば、罰金を回避することができる。 この変更により、自動車業界はより多くの時間を持ち、規制に対応することが可能となる。EU議会はこの提案を賛成多数で可決し、キリスト教民主党(EPP)は自動車産業にとって良いシグナルだと評価した一方、緑の党はこの延期が気候変動に悪影響を与えると反対票を投じた。最終的な決定は、加盟国理事会の承認を経て発効し、迅速な対応が求められる。

(出典:2025年5月8日、ターゲスシャウ

 

UP Catalyst、CO2資源化でEIBから1800万ユーロ調達

UP Catalystは、CO2を高性能素材に変換する技術で欧州投資銀行から1,800万ユーロの融資を獲得。エストニアでの生産拠点拡大を通じて、グラファイト供給不足への対応と脱炭素化を図る。

UP Catalystは、産業由来のCO2をグラファイトやカーボンナノチューブといった高性能材料へと変換する技術に特化したエストニア・タリン拠点の企業である。同社は、欧州投資銀行(EIB)から1,800万ユーロの融資を獲得し、エネルギー効率に優れる溶融塩電解プロセスの拡大に活用する。このプロセスにより、CO2を原料として、電気自動車用バッテリー、防衛装備品、塗料、コーティング、ポリマー、コンクリート等に使用される素材の製造が可能となる。

同社は2019年に設立され、グラファイト供給が不足するEU、米国、韓国、日本市場をターゲットに、地域生産と持続可能性の観点から優位性を築いている。2024年には自社製造拠点と試験施設をエストニアに設立し、ライフサイクルアセスメントにより業界最小級のカーボンフットプリントを実証した。 UP Catalystは、2030年までに25万トンのCO2をカーボンニュートラル素材に転換する目標を掲げ、欧州委員会の「重要原材料法(CRMA)」に基づく戦略的プロジェクトにも選定された。世界的にグラファイトの供給不足が深刻化する中、同社は欧州の需要不足の最大50%を賄うことを目指している。 EIBの支援は、EUの気候変動対策や製造業強化を促進するInvestEUプログラムの一環として提供され、UP Catalystの商業規模での製造展開を後押しする。

2027年までに、同社は年間270トンのカーボンナノチューブと1,350トンのグリーングラファイトを生産し、年間6,000トンのCO2を有効活用する計画である。現在、同社製のグラファイトは化石燃料由来品と同等の品質を持ち、エネルギー貯蔵や防衛用途における持続可能な代替素材として注目されている。

(出典:2025年4月8日、EU Startups

 

ドイツと英国、北海横断水素パイプライン建設で合意――脱炭素と供給安定を目指す欧州の新構想

ドイツと英国の企業が北海を横断する水素パイプライン建設に合意し、再生可能エネルギー由来のグリーン水素を双方向で輸送可能とする計画を推進。欧州の脱炭素化とエネルギー供給の安定化を目的とし、EUの戦略的プロジェクトへの組み込みも目指している。

ドイツのガスケード・ガストランスポート社と英国のナショナル・ガス社は、北海を横断する水素パイプライン建設に関する意向書に調印した。本計画は、欧州のエネルギー供給の安全性向上と脱炭素化を目的とした水素回廊の一環であり、双方向の輸送能力を有することで、ドイツおよび英国市場における柔軟性と安定供給を確保する構想である。 この取り組みは、欧州全体が推進する水素経済の確立とエネルギー輸入依存の低減という方針に基づいており、プロジェクトは「共通関心プロジェクト(PCI)」または「相互関心プロジェクト(PMI)」としての認定を目指すとともに、EUの10ヵ年ネットワーク開発計画(TYNDP)2026への組み込みも計画されている。調印式はロッテルダムで開催された世界水素サミットにて執り行われ、ドイツ連邦経済エネルギー省のハンナ・シューマッハー部長も出席した。 この計画は、AquaVentusプロジェクトの一部としても機能しており、北海のヘルゴランドとドッガーバンクの間に建設予定の約10ギガワット規模の洋上風力発電と水素電解設備から年間約100万トンのグリーン水素を生産し、本土に輸送することを可能にする。AquaDuctusと呼ばれるこのサブプロジェクトでは、400キロメートル以上におよぶ水素パイプラインの敷設が計画されており、脱炭素社会の実現に資する輸送インフラとして期待されている。 洋上で発電される再生可能エネルギーの利用を最大限に高めるためには、そのエネルギーを効率よく本土へと輸送する手段が求められており、水素パイプラインは経済性と持続可能性の両面から最適な選択肢とされる。本プロジェクトは、技術的・経済的な実現可能性を裏付けるフィージビリティ・スタディの成果に基づいており、欧州のエネルギー政策における中核的構想として位置付けられている。

(出典:2025年5月22日、Hzweiニーダーザクセン州水素ネットワーク

©GASCADE, Fluxys

Insects Plus カンフェレンスがニーダーザクセン州で開催

2025年5月にドイツで開催された第1回「Insects Plus」カンファレンスでは、30か国以上から専門家が集まり、昆虫や藻類由来の持続可能なタンパク質供給について議論が行われた。60件以上の講演やワークショップ、企業展示、現地見学を通じて、科学・技術・規制・市場の多角的な知見が共有された。

2025年5月12日から14日にかけて、ドイツ・クロッペンブルクにおいて、第1回「Insects Plus」カンファレンスが開催された。同会議には、30か国以上から350名を超える専門家が集結し、昆虫、藻類、微生物など多様な素材由来のタンパク質を中心に据え、「持続可能なタンパク質供給の未来」をテーマとした議論が行われた。 この会議は、オスナブリュック市経済振興局(WIGOS)の支援のもと、同市北部に位置するドイツ食品技術研究所(DIL)と、ライプニッツ農業技術・バイオエコノミー研究所(ATB)の協力により開催されたものである。

本カンファレンスは、異分野の知見が交差する交流のプラットフォームとして機能した。 60件を超える専門的な講演および実践的なワークショップでは、循環型経済、消費者の受容性、デジタル変革、規制動向など、多岐にわたるテーマが取り上げられた。科学的知見の深化に加え、実用面における示唆にも富んだ内容であった。 また、Better Insects SolutionsやAndritzをはじめとする25社以上の企業が出展し、代替バイオマスの生産および加工に関する革新的な技術とソリューションを紹介した。さらに、プログラムの一環として、地域産業施設への見学ツアーも実施され、現場の理解を深める機会が提供された。

(出典:2025年オスナブリュック経済振興局

© Jörg Sarbach

イベント報告

 

5月13日 ウェブナー「グリッド技術、欧州企業へのビジネスチャンス」

日欧産業協力センターのウェビナーで、主要技術の市場動向や規制環境を概観し、欧州中小企業の日本市場への参入可能性と課題を解説。

日欧産業協力センターのウェビナー・シリーズの一環として、弊社ピーター・ベックが、特に主要技術における市場動向とトレンドを概観しました。また、政治的枠組み条件や法的規制にも焦点を当て、欧州の中小企業にとっての可能性と課題を評価し、日本でのヒートポンプ・地熱エネルギー市場への参入を検討している企業に対し包括的な情報を提供しました。スマートグリッドに関するレポートはこちらのウェブサイトから御覧頂けます(日欧産業協力センターのウェブサイトにご登録後、閲覧可能となります。)。

5月27日 GJETCアウトリーチイベント

ドイツ・日本エネルギー変革協議会(GJETC)は、カーボンプライシングと重要鉱物に関する最新の研究結果と政策提言を紹介するオンライン・アウトリーチイベントを行いました。

GJETCは、現在の作業段階において、エネルギー転換の成功に向けた2つの主要な課題、カーボンプライシングの受容性の確保と、重要鉱物の供給確保に焦点を当てています。近年、再生可能エネルギー技術の進展に伴い、重要原材料のグローバルなサプライチェーンは流動性が高まっています。国連の目標である2030年までに再生可能エネルギーの割合を3倍に増やすためには、重要原材料の需要増加に対応する明確な政策計画が不可欠です。同時に、カーボンプライシング市場も活発に発展しています。EUの第二世代排出量取引制度(EU-ETS 2)は2027年に開始予定であり、日本は2028年に産業部門へのカーボンプライシングを導入する方針です。日独両国は、今後数年間でこれらの課題に対処する必要があります。 5月27日のイベントでは、GJETCが両テーマに関する調査結果と政策提言を発表し、議論を行いました。これらの内容はファクトシートとしても公開されています。 詳細はこちらのウェブサイトをご覧ください。


イベント案内

 

6月10日DJWシンポジウム「日独の食品産業におけるイノベーション」

ベルリン日独センターにて、「フードテックと未来の市場:日独の食品産業におけるイノベーション」が開催されます。同イベントでは、 食品そのもの、そして、人工知能が効率性、生産性、残渣の削減などに与える影響について意見交換が行われる予定です。

講演者には、フードテック分野のイノベーションを牽引するリーダーたちを招待し、ベストプラクティスや具体的なソリューションについてお話しいただきます。基調講演には、ニーダーザクセン州に所在するドイツ食品技術研究所(DIL)の先端テクノロジー部門長Dr. ケマル・アガノヴィッチ氏が登壇します。ご関心のある方は、こちらのウェブサイトをご覧ください。

6月17日ウェビナー「日本におけるヒートポンプと地熱エネルギー市場」

日欧産業協力センターのウェビナー・シリーズの一環として、ピーター・ベックが、地熱及びヒートポンプの主要技術における市場動向の概要を説明します。

日本の新たなエネルギー計画では、エネルギー効率の拡大と地熱エネルギーの利用拡大が掲げられています。弊社のエネルギーコンサルタントであるベックが、重要性を増す同市場における欧州企業のビジネスチャンスと課題について語ります。 また、政治的枠組み条件と法的規制にも焦点を当てます。最後に、欧州の中小企業にとっての可能性と課題を評価することで、日本のヒートポンプ・地熱エネルギー市場への参入を検討している企業に対して、包括的で有益な洞察を提供します。

詳細はこちらをご覧ください。

https://www.ecos.eu/de/veranstaltungen/details/heat-pumps-and-geothermal-energy-market-in-japan.html